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リアルニューシネマパラダイス!100年を超える奇跡の映画劇場「本宮映画劇場」が凄かった。

本宮映画劇場とは

2021年3月、福島県本宮市にある映画劇場「本宮映画劇場」に見学に訪れた。
本宮映画劇場は、1914年(大正3年)に「本宮座」という名で、芝居小屋として開業した映画劇場で、1943年に本宮映画劇場と名称変更し、1963年まで芝居小屋・映画館として使用された。現在では、不定期の上映会を行ったり、土日に予約制の見学会を行っている。
閉館から60年が経った今でもレトロな外観と内装が残っており、そして今では貴重な「カーボン式」の映写機も日々のメンテナンスにより現在も動かせる状態を保っている。(現役で稼働するのは、おそらく日本でここだけだという。)
そんな日々のメンテナンスを欠かさず、本宮映画劇場を守り続けているのが、館長兼カーボン式映写機の映写技師である田村修司さんだ。

田村修司さん

84歳(2021年3月当時)というご高齢ながら、元気いっぱいに劇場を案内していただき、本宮映画劇場の魅力を教えていただいた。

まるで映画の博物館

  • レトロな外観と内装

実際に劇場を訪れて、本宮映画劇場の魅力の一つはレトロな外観と内装にある。外観は、100年以上つづく建物独自の味があるし、外壁のピンクの色味もとても可愛い。館内入口付近には、昭和の映画ポスターがずらりと並び、昭和の雰囲気がそのまま残っている。

茶色のラジオはかなりの年代物。
このラジオから玉音放送が流れたという。

数多くの映画ポスターが飾られているが、田村さん曰く、昔の映画のポスターは紙の質が悪くすぐに劣化してしまう為、綺麗な状態で保存するのが難しいそう。

映画関連のコレクションの他にも、近くのヌード劇場が閉館する際に譲り受けたという珍しい看板や映画を上映するのに必要なフィルムや道具なども置いてあり、そのどれもがかなりの年季が入っている。

近くの劇場から譲り受けたという「ヌード看板」。
濁点をハートにしているアイデアが面白いと笑いながら話してくれた。

建物自体の雰囲気も魅力的。入り口を抜け、劇場に入ると開館当時から残っているという座席と、味のある木造の舞台があり、昭和の時代にタイムスリップしたかのような懐かしい光景が広がっている。

舞台付近の天井

劇場内にも、昭和の映画ポスターや、銀幕スターたちの顔写真が飾られており、田村さん映画好きが伝わってくる。

天井や座席は昔からそのままだが、今はベニヤ板で固定されている部分に、昔は2階席と3階席があり、多い時は1000人以上のお客さんが入ったという。今のように娯楽が多くなかった時代には、連日多くのお客さんで賑わっており、本宮映画劇場が地域の娯楽の中心となっていた。

3階席まであった当時の本宮映画劇場。
多くの観客で賑わっている。
2013年公開の映画「ハーメルン」では、劇場に登場する映画館のロケ地として使われ、俳優の西島秀俊さんや倍賞千恵子さんが撮影に訪れたという。

本宮映画劇場のオンリーワン

  • 日本で唯一!?カーボン式映写機

劇場を案内していただいた後、「本宮映画劇場の心臓」とも言える、カーボン式映写機を見せていただいた。この、おおむね日本で唯一稼働する映写機もまた、本宮映画劇場の魅力のひとつ。本宮映画劇場に訪れる人やメディアはこぞってこの写真を撮るそう。なぜ、カーボン式の映写機が本宮映画劇場にだけ残ったかを田村さんに聞くと、「50年前に映画館をとしての営業を辞めていたから。」と答えてくれた。映画館を続けていたら、当然時代に合わせて機材は新しくなっていたが、50年前に映画館を辞めているため、昔ながらのカーボン式映写機がそのまま残った。そして何より田村さんの日々のメンテナンスにより、本宮映画劇場は日本で唯一カーボン式映写機の稼働する奇跡の映画劇場となったのだ。

カーボン式の映写機は、2本の炭素棒を接触放電させ発火、そこで生じた光を光源にして映写する仕組みランプの灯りよりも、柔らかい光になるという良さもあるが、放電現象を起こす際に同時に発する熱で、電極のカーボン棒がうっすらとした煙を出しながら消耗し短くなっていくため、電極の間が離れて放電が起こらなくなってしまうという弱点もある。そのため、上映中も放電を維持できるようカーボン棒の間隔を常に調整し続けるという技術が必要。カーボン式映写機は「映写技師」のテクニックを必要とする映写機なのだ。また、昔はナイトレートフィルムという38℃以上の温度が長時間持続すると自然発火を起こす素材のフィルムを使用しており、空気中で燃焼させるカーボン式映写機は常に火災の危険と隣り合わせであった。そのため、映写技師は常に、映写機の隣に立っている必要があったのだという。映画「ニュー・シネマ・パラダイス」で主人公トトの愛する映画館が燃えてしまった原因も、主人公が目を離したすきに、可燃性のフィルムに引火してしまったの原因。映写技師は技術と配慮と責任が必要な仕事だった。

キセノンショートアークランプ

1960年代ごろまでは、可燃性のフィルムと空気中で燃焼するカーボン式映写機が主流だったが、火災の危険性や長時間の連続上映が難しいという点を改善するために、発光部を封止したキセノンショートアークランプに徐々に切り替えられていった。

  • もう一つの日本唯一

映写機本体の近くには、交流を直流に変換し、カーボンに電力を供給する装置「水銀アーク整流器」が置かれている。交流電流のままだと画面の明るさが一定にならないため、この装置で交流から直流にに変換する必要があるという。この水銀整流器も、博物館などにはあるが、現在稼働するものは日本にはここしかないのではないかと田村さんは語る。水銀整流器は放電の際に青白い光を発するのだが、この神秘的な美しい光を見れるのも、ここ本宮映画劇場が最後かもしれない。

水銀アーク整流器(通称:タコ整流器)
交流電流を直流電流に変える際に、美しい青い光を発する。


話を聞いただけでも、映画を上映するには、映写機にフィルムをセットし、アーク整流器によって安定した電力をカーボン式映写機に供給し、二本の炭素棒によって光源を作り、やっと上映。と数多くの工程があることがわかる。上映中も炭素棒の距離を調整するなどの作業が必要になるが、上映前の準備にほとんどの時間を要するため、映画を上映するにあたっては、「2分の映画を流すのも、2時間の映画を流すのも労力は変わらない」という。
今回、特別に3分間の予告映像を上映いただいた。上映いただいた予告は、小津安二郎監督の遺作「秋刀魚の味」。

スクリーンに光を放つ映写機

 
田村さんが一連の工程で映写機を動かすと、カラカラとフィルムが回り始め、映写機のレンズがスクリーンに白い光を放ちだす。スクリーンには色鮮やかな映像が流れはじめた。


カーボン式映写機で放映された映像を初めてみたが、デジタルで映される映像にはない、柔らかく温かみのある色合いがあると感じた。木造建築だから音の響き方もダイナミックだし、劇場の雰囲気もあって、「秋刀魚の味」が公開された1960年代にタイムスリップした気分になった。

また、映像が流れている間、田村さんは映写室でスクリーンと映写機を交互にチェックしており映写技師の職人技を肌で感じることができた。この映写機を動かせるのも福島では田村さん1人だという。

炭素棒の間隔を調整する田村さん


最後に、貴重な映画ポスターを奥から出してきてくれて、劇場の表で写真を撮影させていただいた。


本宮映画劇場でいろいろなお話を伺い、この劇場には「名作映画以上の物語」があると感じた。そして何より、いくつになっても映画に対する情熱を絶やさず、劇場と貴重な映画文化を守り続ける田村さんにパワーをいただいきました!

この記事では語りきれていない魅力を映像でまとめております。ぜひYoutubeもご覧ください!

Information

所在地:〒969-1133 福島県本宮市本宮中條9
TEL:0243-33-1019
見学について:土日のみ見学を受付。見学をする際は、電話にて予約が必要。
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館長田村さんの娘さんによって「本宮映画劇場」の歴史と魅力が書かれた本『場末のシネマパラダイス(筑摩書房)』が発売中!気になる方はぜひお買い求めください!

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えこだりょう

えこだりょう

編集者 / ライター

人々の生活、衣食住に興味があります。 最近では主に職人さんとその手仕事(アナログ的な技法)を取材。 その他にも商店街・ピンク映画館・グッとくる看板・居酒屋のトイレ・シニアのファッション・宗教施設グルメ・入りにくい店などを追っています。 あと、江古田に住んでます。

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