令和6年、壁に富士山が描かれた銭湯は減少傾向にある。もちろん銭湯の数が減っているのもあるし、店主の高齢化による閉店、リノベーション銭湯が増えていることも影響している。それらの影響を受け、”銭湯絵師職人”も減少。 現在、現役の銭湯絵師は3人しかいない。今回の記事では、その中の1人、中島盛夫さん(79歳)が高円寺の銭湯「小杉湯」で銭湯絵のライブペインティングをした様子とそこで聞いたお話を紹介する。
銭湯絵の描き方
銭湯絵は、通常数年単位で描き変えが行われるが今回は、マクドナルドが小杉湯の銭湯絵の上にテープを貼ってプロモーションを行い、その影響で絵が剥がれてしまったため描き換えが行われた。銭湯絵は、1日かけて描かれるため定休日に作業が行われる事が多い。この日は小杉湯の定休日の木曜日に1日かけて作業が行われた。
手順① 足場を組む
銭湯にもよるが、銭湯絵は男湯と女湯をつなぐ壁一面に描かれる大きなものなので、最初に足場を組む。現場の雰囲気はアートの制作現場というよりは大掛かりな工事現場といった感じだ。
手順② ローラーで前の絵を塗りつぶす
銭湯絵の描き変えは、描き足すのではなくほとんどの部分を描き直す形で行われる。足場を組んだら前回描いた絵をローラーを使い、大胆に塗りつぶしていく。ちなみにこのローラーを使う技法は中島さん発案の技法らしく、この技法を取り入れてから以前よりも作業時間を大幅に短縮できるようになったという。
手順③ 絵を描く
ここまでの下準備ができたら、実際に銭湯絵を描いていく。富士山の頂上付近など高い部分の絵はハシゴを使って描かれる。アンバランスな状態で丁寧に絵を描くため、過去の経験と職人としての技術の高さが必要になる。
中島さんの指示により、木の模様部分などはアシスタントの方も一緒に描いていく。この時、最終的にどんな絵になるかは、中島さんの頭の中にだけしかなく、アシスタントの方でさえどんな絵が完成するかはわからないという。
今回は、見事な滝が描かれ、ダイナミックで力強い印象の絵が完成した。
手順④ サインを描き完成
最後に、絵の右下部分にサインと日付を描けば完成。足場を撤去して作業は終了になる。
作業は朝から始まり、最終的に絵が完成するのは夕方。私たちの疲れを癒してくれる、銭湯の絵の裏側には、こうした職人さんたちの汗の滲む努力がある。私たちはあとどのくらい、銭湯で富士山を見られるのだろうか。
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